はじめに
高血圧は生活習慣病の代表であり、日本では成人の3人に1人が罹患していると言われています。食事・運動などの生活習慣改善は基本ですが、多くの場合は薬物治療が必要になります。
日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2025」では、薬物治療のステップアップや併用療法、そして新たに登場した薬剤(ARNIなど)の位置づけが明確化されました。本記事では、患者さんが知っておくべき薬の種類と治療の進め方を整理します。
1. 高血圧治療の基本方針
ガイドライン2025では、生活習慣改善+段階的な薬物治療を基本としています。
- 初期は単剤治療
- 効果不十分なら2剤併用へ
- それでも不十分なら3剤以上や新規薬剤の導入
この「ステップ方式」が明確に示され、より早期に目標血圧(診療室:130/80mmHg未満、自宅:125/75mmHg未満)へ到達することが求められています。
2. 高血圧治療薬の主要な種類
(1) カルシウム拮抗薬(CCB)
- 血管を拡張して血圧を下げる
- 日本人に最も使われる薬のひとつ
- 顔のほてりやむくみが副作用として出やすい
(2) レニン-アンジオテンシン系阻害薬(ARB・ACE阻害薬)
- 血管を収縮させるホルモンを抑える
- 腎臓保護作用があり、糖尿病や蛋白尿を伴う患者に有効
- 咳(ACE阻害薬)や高カリウム血症に注意
(3) 利尿薬
- 余分な塩分・水分を尿に排出
- 特に高齢者や心不全を合併した場合に有効
- 低カリウム血症や尿酸上昇に注意
(4) β遮断薬
- 心拍数を抑え心臓の負担を軽減
- 狭心症や心筋梗塞後の患者に有効
- 気管支喘息・徐脈では注意
3. 併用療法 ― 早期に2剤併用へ
ガイドライン2025では、単剤で効果が不十分なら早めに2剤併用を推奨しています。
よく使われる組み合わせは:
- CCB+ARB
- ARB+利尿薬
- CCB+利尿薬
複数の薬を少量ずつ併用することで、副作用を減らしつつ確実に降圧効果を得ることができます。
4. 治療抵抗性高血圧への対応
生活改善と3剤併用でも血圧が下がらない場合、「治療抵抗性高血圧」と呼ばれます。ここで選択肢になるのが:
(1) MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)
- スピロノラクトン、エプレレノンなど
- 塩分保持ホルモン(アルドステロン)をブロック
- 特に原発性アルドステロン症や抵抗性高血圧で有効
(2) ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)
- サクビトリル/バルサルタン
- RAAS抑制+利尿ペプチド増強の2つの作用
- 元々は心不全治療薬だが、JSH2025で高血圧への応用も記載
- 治療抵抗例や心腎合併症を伴う高血圧に検討
👉 ただし、ARNIやMRAは**すべての患者さんに第一選択で使うものではなく、生活習慣改善・標準薬の併用後に導入される「第2ステップ以降の選択肢」**という位置づけです。
5. 副作用と注意点
- 低血圧や立ちくらみ:特に多剤併用時に注意
- 腎機能障害や電解質異常:ARB・ACE阻害薬・MRAで特にモニタリングが必要
- 高齢者:過度の降圧は転倒や認知症リスクにも関与する可能性があるため、目標血圧は個別調整
6. 池尻大橋せらクリニックでの取り組み
当院ではガイドラインに基づき:
- まず生活習慣改善を徹底し、必要時に薬を導入
- 薬物治療はステップ方式で行い、副作用や合併症リスクを常にチェック
- 抵抗性高血圧にはMRAやARNIも選択肢とし、腎機能・心機能を丁寧にフォロー
- 自宅血圧の記録や眼底検査など総合的な評価を行い、安心して治療を継続できる体制を整えています
まとめ
- 高血圧治療の基本は 生活習慣改善+薬物治療
- 薬は CCB・ARB/ACE・利尿薬・β遮断薬が中心
- 早期に2剤併用、必要に応じて3剤やMRA、ARNIへ
- ARNIは「治療抵抗例や合併症例での追加選択肢」として登場
- 副作用や合併症に配慮し、個別化治療が大切
参考文献
- 日本高血圧学会. 『高血圧治療ガイドライン2025』
- Onoyuri Clinic. 「2025年版 高血圧治療ガイドラインの解説」(onoyuri-clinic.jp)
- ACC Expert Consensus on ARNI use in Hypertension (acc.org)
- Whelton PK, et al. JNC7 report. JAMA. 2003.
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