糖尿病は血糖値が慢性的に高くなる病気で、全身の血管にダメージを与えます。その影響は腎臓にも及び、糖尿病腎症という腎機能障害を引き起こします。
腎症は進行すると人工透析が必要になり、生活に大きな制限をもたらします。しかし、早期に見つけて適切に対策を取れば、進行を遅らせることが可能です。
糖尿病腎症とは?
腎臓は血液をろ過し、不要な老廃物や余分な水分を尿として排出する臓器です。糖尿病で血糖値が高い状態が続くと、腎臓の細い血管(糸球体)が傷み、ろ過機能が低下します。
初期は自覚症状がほとんどなく、健康診断では見つからないこともあるため、定期的な検査が重要です。
なぜ怖いのか?
糖尿病腎症は、日本における新規透析導入の原因の第1位です。透析が始まると週3回以上、1回4〜5時間の通院が必要になり、食事や水分の制限も厳しくなります。
また、腎症が進行すると心血管疾患のリスクも上昇します。
糖尿病腎症の進行段階(ステージ)
- 第1期(腎症前期):尿検査で異常なし。血糖コントロールが悪化すると徐々に進行。
- 第2期(早期腎症期):尿に微量のアルブミンが出始める(微量アルブミン尿)。まだ症状はない。
- 第3期(顕性腎症期):尿タンパクがはっきり増加。血圧が上がりやすくなる。
- 第4期(腎不全期):腎機能低下が進行し、老廃物が血液中に蓄積。むくみや倦怠感が出やすい。
- 第5期(透析期):腎機能が著しく低下し、人工透析や腎移植が必要。
腎症の初期症状
- 特に症状なし(初期は無症状)
- 進行すると…
- 手足のむくみ
- 体がだるい
- 尿量の変化(減少)
- 息切れや貧血
これらは腎機能がかなり低下してから現れるため、症状が出てからでは遅いのが特徴です。
腎機能障害を見つけるための検査
- urinalysis:微量アルブミン尿、尿タンパク
- 血液検査:クレアチニン、eGFR(腎機能の指標)
- 血圧測定:腎症の進行は高血圧と密接に関連
当院では、糖尿病専門医による診療と同時に腎機能検査を定期的に実施しています。血糖だけでなく、腎臓・神経・眼の状態を一度に評価できるため、合併症の見逃しを防ぎます。
予防と進行抑制のポイント
1. 血糖コントロール
HbA1cを目標値に保ち、血糖変動を抑えることが腎症予防の基本です。
2. 血圧・脂質の管理
- 目標血圧:130/80 mmHg未満(腎症患者ではより厳格に管理)
- LDLコレステロールや中性脂肪も適正範囲に維持
3. 食事療法
- 塩分制限(1日6g未満)
- タンパク質は必要量を確保しつつ過剰摂取を避ける
- カリウムやリンの制限(腎機能が低下した場合)
4. 運動療法
有酸素運動+筋トレは血流改善と血糖管理に有効。ただし、進行期では負荷量を医師と相談し調整が必要です。
当院の特徴
- 糖尿病専門医による腎症評価:血糖管理と腎機能管理を両立
- 総合的な検査体制:血液・尿・血圧・眼底検査を院内で実施
- 運動療法の併用:腎機能維持と合併症予防のためのプログラム提供
- 生活習慣改善支援:栄養指導・運動指導・服薬管理をトータルサポート
まとめ
糖尿病腎症は、初期には症状がなく、進行すると透析が必要になる重大な合併症です。
しかし、早期発見と適切な管理で進行を抑えられる可能性が高い病気でもあります。
血糖・血圧・脂質の管理、食事・運動療法、そして定期的な検査が腎臓を守る鍵です。
池尻大橋せらクリニックでは、多職種が連携し、腎症を含む全身の合併症予防に取り組んでいます。気になる方はぜひご相談ください。
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5.当院の特徴・サポート体制
- 池尻大橋せらクリニックの生活習慣病治療 ― 糖尿病・MASLD・高血圧・脂質異常症を横断的に管理
医師監修の運動療法、ロカボ食サポート、眼底・ABI・頸動脈エコーなど総合評価体制を紹介。