はじめに:脂肪肝の9割は「非アルコール性」だった
健診で「脂肪肝」と指摘された場合、そのほとんどが「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:nonalcoholic fatty liver disease)」です。
これはウイルス性肝炎や大量のアルコール摂取がなくても、肥満や糖尿病などの生活習慣によって肝臓に脂肪が蓄積される状態を指していました。
しかし、2023年にアメリカ肝臓学会(AASLD)や国際肝臓会議(EASL)により、新たな疾患概念として「MASLD(代謝異常関連脂肪性肝疾患:Metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease)」が提唱され、NAFLDという呼び名は国際的に廃止の方向になっています(Lazarus et al., 2023)。
NAFLDとMASLDの違いとは?
特徴 | NAFLD | MASLD(新名称) |
診断基準 | 肝脂肪蓄積+飲酒量が少ないこと | 肝脂肪蓄積+1つ以上の代謝異常 |
アルコール基準 | 男性 <30g/日、女性 <20g/日 | 明確な基準ではなく、代謝異常の有無が主軸 |
言葉の印象 | 「飲酒していないこと」を強調 | 「代謝異常」を強調 |
問題点 | “非”という否定語で定義されていた | “原因に着目”したポジティブな疾患名 |
従来のNAFLDは「お酒を飲まないのに脂肪肝になった人」という定義でしたが、飲酒量の境界や問診の信頼性に課題がありました。また、肝疾患の本質は“代謝異常”であることが多数の研究で示されたことから、新しい枠組みとしてMASLDという疾患概念が誕生したのです。
MASLD(旧NAFLD)はなぜ問題なのか?
非アルコール性脂肪肝と呼ばれていた段階でも、多くの方が「特に症状がないから大丈夫」と油断していました。しかし、以下の事実が分かっています。
- 肥満・糖尿病患者の約70%以上が脂肪肝(Younossi et al., 2016)
- 脂肪肝があると、肝がんや心血管疾患のリスクが大幅に上昇(Targher et al., 2010)
- 肝硬変の原因の約30%が非アルコール性脂肪肝由来(Chalasani et al., 2018)
つまり、“無症状の脂肪肝”は、将来の命に関わるリスクの入口なのです。
診断:何が「非アルコール性脂肪肝」なのか?
MASLD(旧NAFLD)の診断には、以下の項目をチェックします。
- 肝脂肪蓄積の確認(腹部エコー、MRI-PDFF、FibroScan CAPなど)
- 代謝異常の有無(以下のうち1つ以上)
- 肥満(BMI ≥25)
- 高血圧(収縮期≥130mmHg、または降圧薬服用)
- 糖尿病、またはHbA1c≥5.7%
- 高TG(≥150mg/dL)または低HDL(男性<40mg/dL、女性<50mg/dL)
- 肥満(BMI ≥25)
アルコール摂取の有無は参考程度となり、代謝異常が主たる診断根拠となります。
治療方針:生活習慣+必要に応じた薬物療法
✅ 基本は食事と運動
体重の5〜10%減少が肝脂肪減少に強く関連し(Vilar-Gomez et al., 2015)、糖質制限(1日130g以下)+高たんぱく+有酸素運動+筋トレが推奨されます。
▶ 詳しくは → [脂肪肝の食事] / [脂肪肝 運動]
✅ 自由診療での薬物療法(希望者)
- GLP-1受容体作動薬(例:リベルサス、オゼンピック)
- チルゼパチド(マンジャロ)
- 高用量ビタミンEやプロバイオティクス(一部論文では効果示唆あり)
なども、代謝改善と肝脂肪減少の両面からエビデンスが蓄積中です(Newsome et al., 2021)。
まとめ:脂肪肝=MASLDは「治せる生活習慣病」
非アルコール性脂肪肝と呼ばれていた病気は、現在では「MASLD」として再定義されています。これは単に飲酒をしていないというだけではなく、「代謝異常を背景とした、生活習慣病としての脂肪肝」として積極的な対策が必要な病気です。
池尻大橋せらクリニックでは、肝機能チェック、エコー、食事・運動指導、自由診療による薬物療法まで一貫してサポートしています。
気になる方は、まず「脂肪肝チェック」から始めてみましょう。
【参考文献】
- Lazarus, J.V. et al. (2023). The redefinition of fatty liver disease: an international consensus. Lancet Gastroenterol Hepatol, 8(3), 225–234.
- Younossi, Z.M. et al. (2016). Global epidemiology of NAFLD–Meta-analytic assessment of prevalence, incidence, and outcomes. Hepatology, 64(1), 73–84.
- Targher, G. et al. (2010). Nonalcoholic fatty liver disease and increased risk of cardiovascular disease. Atherosclerosis, 211(1), 183–190.
- Chalasani, N. et al. (2018). The diagnosis and management of NAFLD: practice guidance from the AASLD. Hepatology, 67(1), 328–357.
- Vilar-Gomez, E. et al. (2015). Weight loss through lifestyle modification reduces fibrosis progression in patients with nonalcoholic steatohepatitis. Gastroenterology, 149(2), 367–378.
- Newsome, P.N. et al. (2021). A placebo-controlled trial of subcutaneous semaglutide in nonalcoholic steatohepatitis. New Engl J Med, 384(12), 1113–1124.
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