はじめに
脂質異常症は、食事や運動による改善が基本ですが、数値が大きく高い場合や合併症リスクがある場合は薬物療法が必要になります。
近年は新しい薬も登場し、選択肢が広がっています。今回は脂質異常症で使われる薬について、わかりやすく整理します。
1. 脂質異常症に使われる主な薬の種類
(1) スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)
- 効果:LDLコレステロールを強力に下げる(20〜50%低下)
- 代表薬:アトルバスタチン、ロスバスタチン、プラバスタチンなど
- 副作用:肝機能障害、筋肉痛(横紋筋融解症は稀)
- 特徴:心筋梗塞や脳梗塞の予防効果が最も強く、第一選択薬
(2) フィブラート系
- 効果:中性脂肪を下げ、HDL(善玉)を上げる
- 代表薬:フェノフィブラート、ベザフィブラート
- 副作用:肝障害、腎機能低下、筋肉障害(スタチンとの併用注意)
- 特徴:高トリグリセリド血症や低HDLの患者に有効
(3) エゼチミブ
- 効果:腸管でのコレステロール吸収を抑制
- 特徴:スタチンと併用するとさらにLDLを下げられる
- 副作用:消化器症状、肝障害(スタチンと併用時)
(4) PCSK9阻害薬
- 効果:LDLを50〜60%低下させる強力な薬
- 代表薬:エボロクマブ、アリロクマブ(注射薬)
- 特徴:家族性高コレステロール血症や、スタチンで十分に下がらない患者に使用
- 注意点:高額(保険適応条件あり)
(5) EPA製剤(エイコサペンタエン酸)
- 効果:中性脂肪を下げ、動脈硬化を抑制
- 代表薬:イコサペント酸エチル
- 特徴:スタチンとの併用で心血管イベント抑制効果が報告されている
2. 薬の使い分け
- LDLコレステロールが高い → スタチンが第一選択
- 中性脂肪が高い → フィブラート or EPA製剤
- スタチンだけでは不十分 → エゼチミブ追加
- 家族性高コレステロール血症や重症例 → PCSK9阻害薬
3. 薬を始めるタイミング
- LDLコレステロールが 160mg/dL以上
- 糖尿病・高血圧・喫煙などリスクが複数ある場合
- 心筋梗塞や脳梗塞をすでに発症している場合(再発予防として必須)
ガイドラインでは、総合的リスク評価(年齢・血圧・糖尿病・喫煙歴など) に基づいて薬の開始を判断します。
4. 薬を飲んでいる間に注意すること
- 定期的な血液検査:肝機能・腎機能・CK(筋肉)をチェック
- 副作用があれば早めに相談:筋肉痛、尿の色の異常、強い倦怠感など
- 勝手に中止しない:中断するとLDLがすぐに戻り、リスクが再び上がります
5. 池尻大橋せらクリニックでの取り組み
当院では、脂質異常症に対して
- 血液検査+眼底・ABI・頸動脈エコーで動脈硬化リスクを見える化
- 生活習慣改善(食事・運動・メディカルダイエット)と薬の両立を支援
- 糖尿病・高血圧・MASLD(脂肪肝)・脂質異常症を横断的に管理
といった包括的アプローチを実践しています。
まとめ
- 脂質異常症の薬は、スタチンが基本であり、必要に応じて他の薬を追加。
- 中性脂肪が高い場合はフィブラートやEPA製剤も有効。
- スタチンで不十分ならエゼチミブやPCSK9阻害薬を検討。
- 池尻大橋せらクリニックでは、検査+生活習慣改善+薬物療法+運動療法を統合してサポートしています。
参考文献
- 日本動脈硬化学会. 『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022』
- Grundy SM, et al. 2018 AHA/ACC Guideline on the Management of Blood Cholesterol. J Am Coll Cardiol. 2019
- Cannon CP, et al. Ezetimibe Added to Statin Therapy after Acute Coronary Syndromes. N Engl J Med. 2015
- Sabatine MS, et al. Evolocumab and Clinical Outcomes in Patients with Cardiovascular Disease. N Engl J Med. 2017