脂肪肝(MASLD:Metabolic dysfunction‑associated steatotic liver disease)は、肥満・糖尿病・脂質異常・高血圧などの代謝異常を伴う脂肪蓄積型肝疾患です。肝炎(MASH)や肝硬変へ進行する前に、食事療法を中心とした生活習慣改善が極めて重要です。
本記事では、科学的エビデンスをもとに、脂肪肝改善に有効な食事パターンや具体的な食品選び、実践ポイントを整理します。
■ 食事療法の基本方針
① 総カロリー制限と体重管理
体重の5〜10%減少で肝脂肪の改善が得られ、10%以上減量でMASH改善や線維化の後退も期待できます(George et al., 2018)。
② 食事全体の栄養バランス
カロリー制限だけでなく、炭水化物を50‑60%、脂質20‑25%、たんぱく質を25‑30%にした食事構成が望ましいとされています(Tokushige et al., 2021)。
③ 地中海食や伝統的日本食の活用
野菜・全粒穀物・ナッツ・魚・オリーブ油などを中心とした地中海食は、肝脂肪と肝酵素の改善に有効(Houttu et al., 2021)。
日本食でも、食物繊維・大豆・緑黄色野菜摂取が肝線維化リスクを軽減する報告があります(Sasada et al., 2024)。
■ 脂肪肝を改善する具体的な食品とポイント
1. 糖質を控える(ロカボ:1日130g以内)
脂肪肝の主因であるインスリン抵抗性を改善するためには、糖質制限が極めて有効です。日本人の体質や食文化を考慮すると、「ロカボ(ゆるやか糖質制限)」が現実的かつ持続しやすいアプローチです。
- 1日の糖質量を130g以下に抑える
- 1食あたり40g以内を目安とし、甘い間食やジュースは完全に禁止
- 精製糖質(白米、パン、菓子類、小麦製品)を減らし、全粒穀物や低GI食品に置き換える
- 糖質の吸収を緩やかにするために、野菜やたんぱく質を先に食べる食べ順の工夫も有効です
補足:果物は「食後にそのまま食べる」ことで果糖の代謝リスクを抑えられます。ジュース・スムージーのように繊維が取り除かれた形での摂取は避けましょう。
2. 良質な脂質を選ぶ
飽和脂肪酸(肉の脂・乳製品など)を抑え、オリーブ油・ナッツ・魚由来の不飽和脂肪酸(EPA/DHA)を積極的に摂取しましょう。
3.たんぱく質をしっかり摂る
糖質制限と並行して筋肉量を維持・増加させるため、毎食20g以上のたんぱく質摂取を目標にします。
魚・鶏肉・大豆製品・卵・チーズなどの糖質が少ない高たんぱく食品を優先しましょう。
4. 食物繊維を豊富にする(腸活)
全粒穀物・野菜・豆類・海藻など食物繊維が豊富な食品が腸内環境を整え、炎症抑制や脂質代謝改善に寄与します。
5. 間欠的断食(Intermittent Fasting)も活用できる
一定時間の断食(例:16時間断食/8時間食事)を導入するとインスリン感受性改善や生活習慣の制御に効果的と推奨されています(Economic Times 2025)。
*クリニックが断食を積極的に勧めているわけではありません。
■ 推奨される食事パターン
- 朝食:全粒トースト+卵や納豆+野菜サラダ+オリーブオイル
- 昼食:魚・鶏肉・豆腐中心の定食/全粒ご飯少量+野菜多め
- 夕食:青魚(サバ・イワシ)+野菜煮+味噌汁+少量のご飯
- 間食:ナッツ一握り・ヨーグルト・グリーンバナナ1本など(果糖控えめ)
■ 注意点とNG食品
- 揚げ物・加工食品・清涼飲料水・ジュース・菓子パン・脂肪の多い肉・大量の白米
- 急激な断食や極端な低栄養食は逆に肝脂肪を悪化させる可能性
- アルコールは肝臓に直接ダメージとなるため、特にMASLDでは禁酒を強く推奨
■ まとめ:食事で脂肪肝を変えられる
- 体重の5〜10%減少と、PFCバランスの最適化が肝脂肪減少に直結します。
- 地中海食や日本食スタイルは科学的に肝脂肪改善効果が確認されているため、継続しやすい食事スタイルです。
- 糖質質や果糖、飽和脂肪酸の過剰摂取は肝脂肪を増やす →精製糖質を控え、良質な食材中心に。
- 腸活(食物繊維・発酵食品)を通じて、腸肝軸を整えることも重要。
- 食事療法単独でも改善しますが、運動・薬物治療と併用することで効果はさらに高まります。
【参考文献】
- Prabhakar O, et al. Role of diet and lifestyle modification in the management of NAFLD. (PMC8059462) 2020.
- Houttu V, et al. Dietary interventions in NAFLD: Mediterranean diet effects. Front Nutr. 2021;8:716783.
- George ES, et al. Practical dietary recommendations for prevention of NAFLD. Obesity Reviews 2018.
- Tokushige K, et al. Japanese guidelines for NAFLD/NASH. J Gastroenterol. 2021; (evidence low calory diet).
- Sasada T, et al. Japanese diet and MASLD severity association. Nutrients. 2024;16(17):1175.
- Romero‑Gómez M, et al. BMJ evidence on diet interventions for NAFLD. BMJ. 2023.
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