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脂肪肝と薬物療法|MASLD(代謝異常関連脂肪性肝疾患)治療の最前線

脂肪肝、特に近年注目されているMASLD(代謝異常関連脂肪性肝疾患)は、肝臓の脂肪蓄積に加えて、糖尿病・高血圧・脂質異常などの代謝異常を伴う疾患です。放置すると肝硬変や肝がんに進行する可能性があるため、積極的な介入が推奨されます。

❖ 日本では薬物療法は原則「自由診療」

現時点(2025年現在)で、日本でMASLDに対して保険適応のある薬剤はありません。そのため、自由診療での使用を前提に、十分な説明と同意のもと慎重に導入する必要があります。

脂肪肝・MASHに有効とされる主な薬物療法

以下は、日本国内でも導入可能な薬剤であり、エビデンスに基づいて効果が報告されているものです。あくまで医師の裁量と患者の状態に応じた個別判断が必要ですが、実臨床において検討しうる選択肢を解説します。

① セマグルチド(GLP-1受容体作動薬)

  • 商品名:オゼンピック(皮下注)、リベルサス(経口)
  • 作用機序:GLP-1受容体に作用し、食欲抑制・インスリン分泌促進・胃排出遅延などにより減量と糖代謝改善をもたらす。
  • エビデンス:生検で確認されたMASH(旧NASH)の改善効果あり(Fibrosis改善は限定的)
    ‣ Newsome PN et al., Lancet. 2021;397(10290):2180-2193.
  • 注意点:
    • 悪心・嘔吐などの消化器症状
    • 高コスト(1ヶ月数万円)
    • 日本では2型糖尿病に対する適応

② チルゼパチド(GIP/GLP-1デュアル作動薬)

  • 商品名:マンジャロ
  • 作用機序:GIPとGLP-1の二重刺激により、より強力な体重減少とインスリン感受性改善
  • エビデンス:最近の試験で肝脂肪量の顕著な減少が確認されており、MASH改善効果も示唆されている
    ‣ Hartman ML et al., Obesity (Silver Spring). 2023;31(4):924–933.
  • 注意点:
    • 副作用・価格はセマグルチドと同様またはそれ以上
    • 現時点では保険外使用(糖尿病に準じた使用)

③ ピオグリタゾン(PPARγ作動薬)

  • 商品名:アクトス
  • 作用機序:インスリン感受性を改善、脂肪酸の再分配、炎症抑制
  • エビデンス:MASHの改善に有効(特に糖尿病合併例)
    ‣ Cusi K et al., Ann Intern Med. 2016;165(5):305–315.
  • 注意点:
    • 体重増加、浮腫、心不全の悪化リスク
    • 膀胱がんリスクの懸念

④ SGLT2阻害薬(例:エンパグリフロジン、ダパグリフロジン

  • 作用機序:尿中へ糖を排泄し、減量・血糖・脂質改善を通じて肝脂肪減少に寄与
  • エビデンス:複数のRCT・メタ解析で肝脂肪減少や肝酵素低下が示されている
    ‣ Mantovani A et al., Diabetes Metab. 2020;46(6):427–434.
  • 注意点:
    • 尿路感染症、脱水、ケトアシドーシス
    • 糖尿病がない場合は慎重適応(適応外使用)

⑤ サルグリグリプチン(新規PPARα/δ作動薬、開発中)

  • 日本未承認ですが、脂肪肝炎と線維化の両方に効果が期待されている候補薬。
  • 海外治験段階(Lanifibranor, Aramchol, Resmetiromなど)

治療戦略の基本と位置づけ

段階主な治療方針推奨薬剤(自由診療含む)
初期(脂肪肝のみ、採血異常なし)生活習慣改善+希望あればGLP-1系セマグルチド、チルゼパチド
中期(ALT・AST上昇、代謝異常)上記+SGLT2 or ピオグリタゾン検討同左
後期(MASH、生検で線維化あり)強力介入、将来的に抗線維化薬もチルゼパチド、ピオグリタゾン、高度施設紹介

おわりに

MASLDは生活習慣で改善可能な病気でありながら、進行すれば肝硬変やがんへと発展する重大な疾患です。食事・運動を基本に、適切な薬物療法を組み合わせることが治療の鍵です。
日本では現時点で保険適応の薬剤が存在しないため、自由診療としての明確な目的とリスクの理解が重要となります。

薬物療法の導入については、臨床症状や検査値、画像評価などを踏まえ、慎重に行っていきましょう。

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