はじめに
糖尿病治療では、食事療法と運動療法が基盤ですが、それだけではコントロールが不十分なことが多いため、薬物療法が不可欠になります。
薬には多くの種類があり、それぞれ作用機序や適応・副作用が異なります。
本記事では、薬物療法に特化して、最新の使い分け戦略・併用の考え方・注意点を整理します。
1. 薬物療法開始のタイミング・基本戦略
- 生活習慣改善のみで目標血糖が達成できない場合に導入
- HbA1c が目標(例:6.5~7.0%前後)を超える状態が継続する場合
- 高血糖の症状がある場合は早期導入を考慮
ガイドラインでは、早期治療開始・早期多剤併用が合併症予防に有効という考え方が強まっています。
2. 主な糖尿病薬の種類と特徴
以下、主要な薬剤カテゴリーと、それぞれの特徴・使い分けを整理します。
薬剤群 | 作用機序 | 主な利点 | 注意点・禁忌 | 適応例 |
ビグアナイド系(例:メトホルミン) | 肝臓での糖新生抑制、インスリン感受性改善 | 低コスト、体重増加少 | 腎機能低下例/慢性腎不全/重症肝障害注意 | 第一選択薬多数例 |
SGLT2阻害薬 | 腎臓から糖排出促進 | 体重減少・血圧低下・心腎保護効果 | 脱水・尿路感染・ケトアシドーシスのリスク | 肥満例、高血圧併存例 |
DPP-4阻害薬 | インクレチン系ホルモン維持 | 低血糖リスク低、使いやすい | 効果やや緩やか | 高齢者・基礎治療併用例 |
GLP-1受容体作動薬 | 食後インスリン分泌促進・食欲抑制 | 体重減少・心血管保護効果 | 吐き気・消化器症状注意 | 肥満併存例・動脈硬化高リスク例 |
SU薬/速効型分泌促進薬 | インスリン分泌促進 | 即効性 | 低血糖リスク | 食後高血糖例 |
インスリン療法 | 外因性インスリン補充 | 強力な血糖コントロール | 低血糖・体重増加 | 分泌が著しく低下した例・昏睡前糖尿病 |
3. 具体的な選び方や併用戦略
(1) 単剤から始める
まずは一つの薬を使い、効果や副作用を確認します。
適切な薬が選択されれば、1剤で十分にコントロール可能なことがあります。
(2) 多剤併用(2剤以上)
1剤では目標に到達しない場合、作用機序の異なる薬を併用することで相乗効果を狙います。
例:メトホルミン + SGLT2阻害薬/メトホルミン + DPP-4阻害薬など。
(3) 早期導入戦略
最近のガイドラインでは、早めに2~3剤併用、あるいはGLP-1やSGLT2を早期導入する戦略が示唆されています。
(4) インスリン導入
重症例や合併症高リスク例では、早期にインスリン療法を導入して血糖を急速に安定させ、その後他剤に切り替える戦略もあります。
4. 安全性・副作用・モニタリングのポイント
- 低血糖:SU薬やインスリンは特に注意。食事・運動と連動して調整が必要
- 腎機能:メトホルミンやSGLT2阻害薬は腎機能障害で慎重に
- 消化器症状:GLP-1系は吐き気などが出やすい
- 脱水・尿路感染 リスク:SGLT2使用時には水分補給が必須
- 心腎保護効果の活用:高リスク例ではSGLT2/GLP-1の選択を重視
治療を始めたら、定期的に 血糖・HbA1c・腎機能・電解質・体重 をモニタリングすることが不可欠です。
5. 当院での薬物療法方針
池尻大橋せらクリニックでは、糖尿病薬物療法について以下の方針を取っています:
- 個別化:年齢・腎機能・心血管リスク・併存疾患を考慮して薬を選定
- 早期併用:適応なら早めの併用を視野に入れる
- 合併症視点:心腎保護効果を重視して SGLT2/GLP-1 を優先検討
- 運動・食事と併行:薬だけでなく生活習慣改善とセットで処方
- フォローと柔軟な調整:副作用・効果を見ながら、薬の種類・量を適宜見直す
まとめ
- 糖尿病の薬物療法は複数の薬を使い分け、個別化が鍵
- メトホルミンは第一選択、SGLT2/GLP-1 は保護効果を持つ注目薬
- 安全性と効果を両立させるためにモニタリングが不可欠
- 池尻大橋せらクリニックでは、薬物療法を適切に設計し、生活習慣改善と併用して治療を支援します
参考文献
- 日本糖尿病学会. 『糖尿病診療ガイド2024-2025』
- American Diabetes Association. Standards of Care in Diabetes 2024.
- Davies MJ, et al. Management of hyperglycemia in type 2 diabetes, 2023. Diabetologia.
- Zelniker TA, et al. Cardiovascular, mortality, and kidney outcomes with SGLT2 inhibitors in patients with type 2 diabetes: a systematic review and meta-analysis. Lancet Diabetes Endocrinol.
糖尿病シリーズ ― 関連記事リスト
1.糖尿病の基礎を知る
- 糖尿病とは ― なぜ血糖が上がるのか?原因とメカニズムを解説
糖尿病の発症に関わる「インスリン抵抗性」「遺伝」「生活習慣」など、根本原因をわかりやすく紹介。 - 糖尿病の初期症状 ― 早期発見のサインを見逃さない
喉の渇き・多尿・体重減少など、気づきにくい初期のサインを丁寧に解説。 - 糖尿病の診断基準 ― HbA1c・血糖値・OGTTの違いと最新基準
診断に使われる数値や、近年改訂された診断基準のポイントを整理。 - 糖尿病の検査 ― 血液・尿・合併症まで総合的に評価
眼底検査やABI・頸動脈エコーなど、池尻大橋せらクリニックで実施できる総合検査体制を紹介。
2.治療と生活習慣の整え方
- 糖尿病の治療 ― 食事・運動・薬で血糖と血管を守る
「数値を下げる」ではなく「合併症を防ぐ」ための治療戦略を解説。 - 糖尿病の食事 ― ロカボで無理なく血糖コントロール
食べてはいけないものではなく、どう食べるかを重視した実践型の食事法。 - 糖尿病と運動 ― 筋肉が薬になる!有酸素×筋トレの科学
血糖を直接下げる運動の効果と、続けやすい運動習慣の作り方。 - 糖尿病の薬物治療 ― 最新の治療方針と多剤併用の考え方
DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、GLP-1作動薬などの特徴を比較し、最新治療の流れを紹介。
3.合併症を防ぐために
- 糖尿病の合併症 ― 「しめじ」と「えのき」で覚える合併症対策
神経障害・網膜症・腎症・壊疽・脳卒中・心疾患の6大合併症をまとめて解説。 - 糖尿病による神経障害 ― 手足のしびれ・痛みの仕組みと対策
末梢神経障害の初期サインと、早期にやるべき生活改善法を紹介。 - 糖尿病と腎機能障害 ― 尿アルブミン検査の重要性と守るための習慣
腎臓への負担を軽減し、透析を防ぐための実践的アプローチ。 - 糖尿病と目の病気 ― 目がかすむ原因と網膜症の早期発見法
眼底カメラによる検査の仕組みと、放置のリスクを解説。
4.予防・早期介入
- 糖尿病の予防 ― 血糖値の波を抑えて、なりにくい体をつくる
「なってから治す」ではなく「なる前に整える」ための食事・運動・睡眠法を紹介。 - 糖尿病になりやすい人の特徴と体質 ― 今からできるセルフチェック
遺伝・脂肪肝・運動不足など、発症リスクを整理して早期介入を推奨。
5.当院の特徴・サポート体制
- 池尻大橋せらクリニックの生活習慣病治療 ― 糖尿病・MASLD・高血圧・脂質異常症を横断的に管理
医師監修の運動療法、ロカボ食サポート、眼底・ABI・頸動脈エコーなど総合評価体制を紹介。